乗鞍スカイライン

Norikura pass -01

 早朝の山手線を経由して僕は新宿駅にいた。休日返上で働いた仕事のヤマはおわり今日は代休を貰っていた。平日の朝ということもあり新宿駅は通勤ラッシュの時間帯に差し迫っていた。サラリーマンたちが急ぎ足でホームの階段を駆け降りてゆくのを僕は目で追い東京の街が動き始める朝を感じていた。
 始発の特急スーパーあずさ1号の自由席後部座席を狙い約1時間半前から誰もいない駅のホームに僕はいた。発車時刻が近づくにつれホームに長い列が続いた。その殆どは登山客だ。
 スーパーあずさの車両がホームへと入ってきた。乗車口が開けられ我先にと乗車する人の群れに押されながら僕は落胆した。何故なら乗車口が先頭側だったのだ。僕は仕方なく車両の前方を陣取り座席前のスペースに自転車を置いた。隣りに座る人には大変申し訳なく思ったが意外にこれもアリかと思った。

※特急スーパーあずさ :1両に対し乗車口は前後に2つ、後部座席は自転車を置ける
※特急あずさ :1両に対し乗車口は先頭側1つ、後部座席は固定式テーブルがある
※常に利用客が多く自由席は平日でも満席になる。

 特急スーパーあずさは快速に飛ばしてゆく。次々に利用客を乗せあっという間に自由席車両は満席になり座席に座れない人であふれた。車窓からみえる景色は都会の風景から長閑な風景へと変わってゆき、長い電車の旅を持て余した僕はそのまま眠ってしまった。目覚めた頃には諏訪湖あたりの風景が車窓から爽快にみえた。そしてまもなく終点松本駅に到着した。

 松本駅のホームに降り松本電鉄上高地線の2両編成電車に乗り換えた。ここから終点新島々駅までの切符は買っていない。どうやら最後に清算するようだ。新島々駅に着くと松本駅からの電車賃と、これから乗るバス運賃の往復切符を買って観光センター行きのバスに乗り込んだ。
 初めてのバスでの輪行だ。自転車をトランクに入れるよう促されたが運転手と交渉して車内に入れてもらうことができた。ここまで一緒だった大半の登山客は上高地行のバスに乗り込んでゆく。僕が乗った乗鞍高原行のバスには5名ほどの利用客しかいない。自転車を車内に持ち込めたのは利用客が少ない故にできたことなのだろう。休日になれば恐らくバス輪行は出来ないと思った。

pack and take bicycle in bass

 今日の目的は乗鞍スカイラインを登ることだ。僕は雑誌やブログなどでよく目にする乗鞍岳の景色に度々感動していた。

 ― 実際に見る景色はもっと素晴らしいに違いない ―

 そう思うと僕にとって乗鞍岳は関東にいる間に絶対に行っておきたい場所になっていた。僕はヒルクライムの経験はあまりなく脚には自信がないが、それでもその素晴らしい景色をみたい気持の方がいつの間にか勝っていた。そして今日その乗鞍岳に登れる嬉しさは計り知れない。

 先に上高地行きのバスを見送り間もなくして乗鞍高原行のバスは発車した。国道158号線(野麦街道)を西へと走ってゆく。バスの輪行がダメなら自走も考えていたコースだが、はっきり言って「危険」だと思った。
 片道1車線の道路だが道幅は狭く大型車が多く往来していた。バスでの輪行に正解を感じ安堵しながら途中稲核ダム、水殿ダムを通り、奈川渡ダム手前のトンネルがトンネル内で枝分かれするところを見てさらに僕は安堵していた。トンネル内は暗く大型バスの幅ギリギリ車幅だった。自転車なんか安全に通れるとは思えない。そう思いながら奈川渡ダムを国道158線が横切るところ(国内でも珍しいダム)を車窓から眺めた。そして長いトンネルを何度も潜り抜け、84号線を左折しまもなくしてバスは「観光センター前」に着いた。僕が車内で下車してゆくところで、おばさんに「無事を祈ってます」と声をかけられ僕は笑顔で返した。

 丁度お昼を回ったところだ。到着した観光センターは平日だからなのか駐車車両も少なく殺伐としていた。ここから頂上までひたすら登り。初心者サイクリストの僕の脚で大丈夫なのだろうか…。自転車を組立てながら不安になりながらも僕は出発した。青空を見上げると太陽の日差しが眩かったが、たまに雲が大きく通り過ぎてゆく。序盤の坂の勾配は程よく感じた。早く森林限界域の景色をみながら走りたい。そう思うと心が躍った。車は少なく風でなびく木々の葉の音と自分の乱れた息遣いだけが聞こえた。休暇村を過ぎ、ほどなくしてマイカー規制区間の入口に着いた僕は自動販売機で飲み物を買う。まだ残暑が続く今日も暑かった。

norikura-01

 ゲート入口で「18:00までに降りてこないと閉めるよ」と警備員に言われ「わかりました」と答えた。そして入口には「熊出没注意」の看板があった。8月末のヒルクライムレースも終わりサイクリストが少ないことを嬉しく思っていたが誰もいない林道に少し不安になった。相変わらず風でなびく木々の葉の音と自分の乱れた息遣いだけが聞こえた。さらに登ると沢の音がかすかに聞こえ、道路脇に小さな沢からできた滝が所々あった。

 それにしてもとても静かなヒルクライムだ。バスとタクシーが通ることがあったが滅多に通ることはない。常に乗鞍岳と1対1で会話しているような気分だった。中盤には勾配のきつい坂が何度も現れた。(初心者だからね)それでも歯を食いしばって登った。急なカーブは外回りを選択して大きく円を書くように登ると楽だと覚えた。
 長い時間登っている。途中、乗鞍岳の頂上付近が見えた。そこにはブログで拝見していた「位ヶ原山荘」があったので寄ることにした。正直言うとただ休憩したかっただけだ。コーラを飲んでここのマスターとちょっと長話をした。客は僕一人だ。ここからの道はすぐ森林限界域になりあと数キロで頂上だというマスターの言葉に再び心が躍った。僕は急いでラックから自転車を降ろし先を急いだ。

 しばらくすると森が開けはじめた。空が近い!雲が僕の方へ向かってくる感じがした!思わず「うおぉー」と声をあげてひとり感動した。標高は2200mは超えている所だ。

 ― 空がこんな近いなんて初めて味わう体験だ ―

norikura-17

 森林限界区間になり木々はなく景色は最高に良い。脚は疲れ切っていたが気分は上々だった。しかしこのあたりから次第に空は大きな雲に覆われ暗くなっていった。この状況を残念に思いながら写真撮影は後にして先に頂上まで登ることにした。先を急いでいると何度も太腿(ふともも)が攣(つ)りそうになった。残念な脚だ(笑)それでもなんとか頂上まで登った。着いた頃には頂上付近は濃い霧に包まれていた。

 周囲の登山客は薄らと確認できた。複雑な気持ちになりながら僕は頂上まで来たことに感動していた。日本の道路では最高峰の峠だ。嬉しくてたまらない。
 天候も良くなる気配はなく、僕は足早に登ってきた道を降ることにした。と雲の隙間から微かに光が差し始めた。景色の良いポイントで何度もシャッターを切った。

 ― 乗鞍岳はとても素晴らしい!本当にいい所だ ―

Norikura pass-04

Norikura pass -03

 森林限界区間の写真を必要以上に撮影しながら観光センターまで降った。到着して輪行支度をやっていると雨が降り始め自転車に乗っている時に雨が降らなかったことを嬉しく思い帰りのバスと電車で松本駅に戻った。すっかりあたりは暗くなった松本駅の雨は土砂降りに変わっていた。本来ならここから宿まで自走の計画だったがこの雨だ(どうせ夕立だろう)。雨宿り気分で近くのラーメン屋に入った…が、食べ終わっても雨が止むことはなくさらに天候は悪化していた。僕は仕方なくタクシーで宿まで向うことにした。フロントガラスに激しく雨が打ちつけられ対向車線のヘッドライトが車道が濡れた雨で眩しく光っていた。窓から外を眺めても夜のネオンがぼやけて何も確認できない。自走ができたら松本城に寄る予定だったが残念でならない。そう思っているとタクシーが宿の玄関付近に車を寄せた。

 雷が鳴る土砂降りの中、僕はトランクから自転車を取り出した。びしょ濡れになった僕は本日の宿、浅間温泉「梅の湯」で旅を終えた。明日もサイクリング予定だったがこの雨ではもう明日は無いと思っていた。この時までは…。

 ― 疲れ切った体を温泉で癒し死んだようにPM9:00に就寝した ―


2013-09-13 (DAY1)

乗鞍アタック
-------------------------------
走行距離 40.81km
獲得標高 1253m
標高 2716m
-------------------------------


[PR]
by moccosupedal | 2013-09-13 21:00 | Cycling


moccosupedal metal gear rock(69)


by Jehannot

更新通知を受け取る